モルタル塗りは、日本の建築において外壁や内壁の仕上げとして広く使用されている技術です。モルタルはセメント、砂、水を混ぜ合わせて作られる建材で、耐久性が高く、適切な施工を行うことで美しい仕上がりを得ることができます。本記事では、モルタル塗りの施工手順、ひび割れ防止対策、そして養生方法について詳しく説明します。
下地の準備と処理
モルタル塗りを行う前に、下地の準備が非常に重要です。下地がしっかりと準備されていないと、モルタルが剥がれたり、ひび割れが発生する原因となります。一般的な下地としては、ラス下地、コンクリート、ALC(軽量気泡コンクリート)パネル、または既存のモルタル壁が使用されます。これらの下地は、ホコリや汚れを取り除き、必要に応じてプライマーを塗布して清掃します。ラス下地の場合は、金網をしっかりと固定し、均一に張ることが求められます。また、コンクリートやALCパネルなどの無機質な下地では、モルタルの付着性を高めるために専用のプライマーを使用することが推奨されます。
杉板の胴縁や合板の取り付け
防水シートを貼る前に、下地に杉板の胴縁を打つ、または合板を貼ることが一般的です。これにより、下地が強化され、防水シートやラス網の固定が安定します。
- 杉板の胴縁の打ち方:杉板の胴縁は、通常幅90mm、厚み10mm程度のものを使用し、これを15~20mm間隔で、柱や間柱に対して45mm程度の釘で2本ずつ打ち付けて固定します。これにより、胴縁がしっかりと固定され、ラス網やモルタルの安定した施工が可能になります。
- 合板の貼り方:合板を使用する場合、耐力壁の構造用合板を兼ねている場合が多いです。この場合、50mm程度の釘を使用し、100~150mm間隔で柱や間柱にしっかりと打ち付けます。合板は、防水シートを貼るための平滑な面を提供し、モルタルの付着を助ける役割を果たします。接合部分での隙間が生じないよう、合板同士をしっかりと密着させることが重要です。
防水シートとラス網の設置
杉板の胴縁や合板を取り付けた後、防水シートを下地に敷きます。防水シートはラス網の下に配置され、壁内への水の侵入を防ぎます。防水シートは、シート同士の重ね幅を確保し、シール処理を行うことで、隙間からの水の侵入を防ぎます。
その後、モルタルの付着性を高め、ひび割れを防ぐためにラス網(ワイヤーラス)を設置します。ラス網は、モルタルのひび割れ防止と強度向上のために重要な役割を果たします。ラス網を設置する際には、以下の点に注意が必要です。
- ラス網の選定:耐食性に優れたステンレス製や亜鉛メッキ製のラス網を使用し、長期間にわたり錆びにくくすることで、ひび割れや内部腐食を防ぎます。
- ラス網の固定方法:ラス網を下地にしっかりと固定するため、ラス釘や専用の留め具を使用します。ラス網はしっかりと張り、均一に固定されることで、モルタルの付着を安定させ、ひび割れを防ぎます。
- 重ね張りの確保:ラス網のシート同士を5cmから10cm程度重ね合わせて張り、接合部分でのひび割れリスクを低減します。
モルタルの塗り付け
モルタルを2層または3層に分けて塗り重ねます。最初の層(荒塗り)は比較的厚く、下地にしっかりと接着させることを目的とします。次に、中塗りを行い、表面を平滑に整えます。最後に、仕上げ塗りを行い、最終的なデザインやテクスチャーを加えます。仕上げ方は、刷毛引き仕上げをします。これは、モルタル塗りの最終仕上げとして、またはその後の吹付や塗り壁のベースとして使用される技法です。刷毛引きは、独特のテクスチャーと風合いを生み出すため、建物のデザインに個性を加えます。
- 施工方法: 中塗りが終わったモルタル層がまだ湿っている状態で、専用の刷毛を使って表面を引いてテクスチャーを作ります。刷毛の引き方や角度により、縦方向、横方向、斜めなど、様々なパターンを表現できますが、通常は、横方向で仕上げます。
- 注意点:
- 均一性の保持: 刷毛引きは、全体的に均一な力加減で行うことが重要です。力加減が不均一だと、仕上がりにムラができ、見た目が不自然になることがあります。
- 乾燥時間の管理: モルタルが乾燥しすぎていると、刷毛引きがうまくいかず、モルタルの表面が剥がれることがあります。適切なタイミングで作業を行うことが求められます。
- 仕上げ後の保護: 刷毛引き仕上げ後、モルタルが完全に乾燥するまで、直射日光や強風にさらさないようにする必要があります。また、雨が降ると仕上がりに影響を与えるため、天候にも注意が必要です。
モルタルのひび割れ防止対策
モルタル塗りにおいて、ひび割れ防止は非常に重要な課題です。ひび割れが発生すると、建物の美観や耐久性が損なわれるだけでなく、水漏れなどの深刻な問題を引き起こす可能性があります。以下は、ひび割れを防ぐための主要な対策です。
- 適切な混合比の管理:モルタルのセメント、砂、水の混合比が不適切であると、乾燥時に収縮が大きくなり、ひび割れが発生しやすくなります。特に水分量が多すぎると、乾燥時に急激に収縮するため、ひび割れの原因となります。混合比を正確に守り、必要に応じて収縮防止剤を使用することが推奨されます。
- 施工厚の管理:モルタルの厚みが不均一だと、乾燥時の収縮が部分的に異なり、ひび割れが発生しやすくなります。特にモルタルの厚みが厚すぎる場合や、逆に薄すぎる場合には注意が必要です。適切な施工厚を維持し、必要に応じて複数回に分けて塗り重ねることが有効です。
- ラス網の使用:モルタルの付着力を高め、ひび割れを防ぐためにラス網を使用します。ラス網はモルタルの内部に補強材として機能し、乾燥時の収縮力を分散させる効果があります。
モルタルの養生方法
モルタルの養生は、乾燥時のひび割れを防ぐために非常に重要です。モルタルは乾燥中に水分を蒸発させることで収縮し、その際にひび割れが発生しやすくなります。養生は以下の方法で行います。
- 散水養生:施工後のモルタルに適度な水を散布し、乾燥を遅らせることでひび割れの発生を防ぎます。特に気温が高い時期や風通しが良い場所では、頻繁に散水を行うことが推奨されます。
- シート養生:モルタルを湿潤状態に保つために、施工後にシートをかけて養生します。シートはモルタル表面を直接覆い、風や直射日光から保護します。これにより、水分の蒸発を抑え、乾燥を緩やかに行うことができます。
- 養生期間の管理:養生は通常、数日から1週間程度行いますが、気温や湿度に応じて期間を調整する必要があります。急激に乾燥させないよう、十分な養生期間を確保することが重要です。
モルタル塗りを下地とした仕上げ方法
モルタル塗りをそのまま外壁仕上げとして使用するケースは少なく、通常はモルタルで下地を作り、その上に吹付仕上げや塗り壁仕上げを施します。一般的な仕上げ方法には以下のようなものがあります。
- リシン吹付: リシンとは、セメントと砂を混ぜたモルタルを吹き付けて、細かな凹凸のある表面を作る仕上げ方法です。耐候性に優れ、外観も美しいため、広く用いられています。
- 吹付タイル: タイル風の模様を作る吹付仕上げで、耐久性と装飾性に優れています。
- スタッコ吹付: スタッコは、厚みのあるモルタル層を吹き付けて、テクスチャーを作る仕上げ方法です。西洋風の建物に多く使われ、独特の風合いが特徴です。
- ジョリパット塗り壁: ジョリパットは、アクリル樹脂を使用した塗り壁材で、モルタル下地の上に塗布して、様々なテクスチャーや色を楽しむことができます。耐候性が高く、デザインの自由度が高いのが特徴です。
まとめ
モルタル塗りは、建物の外観の美しさと耐久性に大きく影響を与える重要な施工プロセスです。各工程において、正確な手順を守り、ひび割れ防止対策や適切な養生を行うことで、長期間にわたり美しい外観と優れた耐久性を維持することができます。また、杉板の胴縁や合板の取り付け、防水シートとラス網の設置など、施工前の準備が最終的な仕上がりに大きく影響するため、細心の注意を払って作業を行うことが求められます。