4号建物の確認申請簡略化廃止について

住まいづくりの基本(住まいづくりの考え方と進め方)
4号建物の確認申請簡略化廃止がすまいづくりに与える影響

 これから住宅を建築しようとする方にとって、「確認申請」という言葉は少し難しく聞こえるかもしれません。しかし、確認申請は住宅の安全性を確保するうえでとても重要な手続きです。その中でも「4号建物」はこれまで特別な扱いを受け、申請手続きが簡略化されていました。これにより、小規模な住宅の建築は比較的スムーズに進められてきましたが、2025年からはこの簡略化が廃止されることになります。

 今回の制度改正は、特に工務店や設計事務所にとって大きな影響を与えますが、施主の方々も変更内容をしっかりと理解しておく必要があります。本記事では、4号建物の確認申請簡略化廃止について、その背景や具体的な変更点、そして今後どのように対応すべきかをわかりやすく解説します。安全で安心な家づくりのために、ぜひ最後までご覧ください。

4号建物とは?

 建築基準法では、建築物を「1号建築物」「2号建築物」「3号建築物」「4号建築物」の4つの区分に分類しています。それぞれの特徴は以下のとおりです。

1号建築物とは?

 1号建築物は、大規模な建築物を指します。具体的には、

  • 高さ60mを超える建築物
  • 延床面積が10,000㎡を超える建築物
  • 特殊な用途(劇場、病院、百貨店、学校など)を持つ建築物

 これらの建物は、耐震・防火・避難計画が厳しく規定されており、構造計算や審査も非常に厳格に行われます。

2号建築物とは?

 2号建築物は、中規模の建築物に分類され、

  • 高さ60m以下の建築物
  • 延床面積が500㎡を超え10,000㎡以下の建築物
  • ホテル、工場、倉庫、事務所ビルなどの中規模施設

 このカテゴリーでは、1号建築物ほどではありませんが、詳細な構造計算や耐震審査が求められます。

3号建築物とは?

 3号建築物は、比較的小規模な建築物で、

  • 延床面積が500㎡以下の非木造建築物
  • 小規模な事務所、工場、店舗など

 構造計算の義務はありますが、1号・2号建築物と比べると手続きはやや簡略化されています。

4号建築物とは?

 4号建築物は、1号、2号、3号以外の建築物のことをいい、木造2階建て以下で延床面積500㎡以下の建築物が該当します。

  • 一般的な戸建住宅や小規模な店舗、事務所など
  • これまで「4号特例」により、確認申請時の構造計算が不要
  • 手続きが簡略化され、施工業者の裁量が大きかった

 しかし、施工ミスや耐震基準不足による問題が指摘され、2025年からは確認申請時の簡略化が廃止されることとなりました。

 これらの建物は「4号特例」として、確認申請の際に構造計算が不要であったり、申請手続きが簡略化されてきました。この制度は小規模な建物が対象であることから、安全性への配慮よりも手続きの簡便さが優先されてきた経緯があります。

簡略化廃止の背景

  4号建物の確認申請簡略化が廃止される背景には、耐震性の向上や施工不良の防止といった大きな目的があります。特に、日本は地震大国であり、建築物の安全性向上は常に求められています。

耐震性の向上

 過去の大地震では、4号建物の中には十分な耐震性を持たずに倒壊した事例が多く報告されています。特に簡略化された確認申請では、構造計算が不要であったため、十分な耐震設計がされていない建物が存在していました。このため、耐震基準を強化し、すべての建物で適切な構造計算を行うことで、将来の地震に備える必要があると判断されました。

施工不良の防止

 施工現場では、構造計算の省略によって建物の強度が十分でないまま施工されるケースが散見されていました。これにより、柱や梁の強度が不足し、建物全体の安全性に問題が生じる事例が発生していました。今後は、

  • すべての建物で構造計算が義務化されることにより、適正な強度を確保
  • 設計ミスや施工不良を未然に防ぐ仕組みを整える

 これにより、安全で長寿命な建物を提供することが可能になります。

建築基準法改正の流れ

 建築基準法は過去にも何度か改正され、耐震性や施工基準が厳格化されてきました。今回の改正もその一環であり、

  • 住宅の長寿命化と安全性の向上
  • 消費者の安心感を高めるための基準強化

 といった目的を持っています。これにより、施主も安心して住宅を建築できる環境が整備されることになります。

簡略化廃止による変更内容

 2025年4月の建築基準法改正により、従来の「4号特例」が見直され、建築確認申請や審査の簡略化措置が大幅に変更されます。この改正の主なポイントは以下のとおりです。

1. 建築物の分類変更

改正前の4号建築物は、主に以下の条件を満たす小規模建築物が対象でした。

  • 木造建築物:2階建て以下、延べ面積500㎡以下、高さ13m以下、または軒高9m以下
  • 非木造建築物:平屋建て、延べ面積200㎡以下

改正後は、これらの建築物が新たに「新2号建築物」と「新3号建築物」に再分類されます。

  • 新2号建築物:木造2階建て、または延べ面積200㎡を超える木造平屋建て
  • 新3号建築物:延べ面積200㎡以下の木造平屋建て

この再分類により、従来の4号建築物の多くが新2号建築物として扱われることになります。

2. 審査項目の拡大

 新2号建築物に分類される建築物については、これまで省略されていた以下の審査項目が新たに対象となります。

  • 構造関係規定:建築物の構造強度や耐震性に関する審査
  • 省エネ関連規定:断熱性能やエネルギー消費性能に関する審査

これにより、設計段階での詳細な構造計算や省エネ性能の確認が求められ、提出書類も増加します。

3. 提出図書の変更

新2号建築物の確認申請時には、以下の図書の提出が新たに必要となります。

  • 構造関係規定等の図書:構造計算書や詳細な構造図面
  • 省エネ関連の図書:省エネ計算書や断熱仕様書

これにより、設計者や施工者の業務量が増加し、確認申請の手続きが複雑化することが予想されます。

4. 建築確認・検査の対象範囲の拡大

 新2号建築物は、都市計画区域内外を問わず、すべての地域で建築確認申請と検査が必要となります。これにより、これまで確認申請が不要だった地域や建築物でも、手続きが義務化されます。

5. 法定審査期間の延長

 新2号建築物の確認申請における法定審査期間は、従来の7日以内から35日以内に延長されます。これにより、着工までのスケジュールに影響が出る可能性があり、計画段階での余裕を持ったスケジュール管理が求められます。

 これらの改正により、設計者や施工者は新たな基準や手続きに対応する必要があり、業務の見直しや体制の強化が求められます。また、建築主や施主にとっても、計画段階からこれらの変更点を踏まえたスケジュールや予算の調整が重要となります。

施主や業界への影響

 2025年4月の建築基準法改正による「4号特例」の廃止および変更により、施主(建築主)や建築業界にはさまざまな影響が及びます。以下に、具体的な影響を詳しく説明します。

計画や着工までのスケジュールの延長

  • 審査期間の延長
    新2号建築物の確認申請における法定審査期間が、従来の7日以内から最大35日以内に延長されます。その結果、計画や着工までにかかる期間が長くなり、スケジュール全体に影響を与える可能性があります。
  • 余裕を持ったスケジュール管理が必要
    従来よりも詳細な審査が行われるため、施主は余裕を持った計画とスケジュール管理が求められます。

設計や施工費用の増加

  • 提出図書の追加
    構造計算書や省エネ計算書など、従来よりも多くの書類の提出が求められるため、その分の設計費用が増加する可能性があります。また、施工費用も高くなる傾向があります。
  • 建築コストの上昇
    省エネ基準や構造計算がより厳格に求められることで、断熱材や構造材などの使用材料が高品質なものに変更される場合があり、結果的に建築コストが上昇することが考えられます。

建築業界全体の業務負担の増加

  • 設計者・施工者の業務負担増
    構造関係規定や省エネ関連規定の審査が新たに求められるため、設計者や施工者は業務量が増加し、より詳細な設計や計画が求められるようになります。特に、中小の設計事務所や工務店にとっては大きな負担となる可能性があります。
  • 資格保有者の確保
    構造計算や省エネ計算を行うための専門的な資格を持つ人材の確保が課題となります。業界全体での技術者の育成が重要になります。

建築確認申請の手続きの複雑化

  • 手続きの煩雑さの増加
    提出書類が増えることや、審査がより厳格になることから、建築確認申請の手続きが煩雑化し、申請にかかる手間や時間が増えることが予想されます。
  • 申請ミスのリスク
    手続きの複雑化により、書類不備や手続きミスが発生しやすくなるため、より慎重な対応が必要です。

小規模住宅の建築における影響

  • コスト負担増による計画の見直し
    小規模住宅を計画する施主にとって、コスト増加が負担となり、建築計画を見直さざるを得ないケースが増える可能性があります。
  • 新たな住宅の供給減少
    コスト負担の増加により、小規模な新築住宅の供給が減少することが考えられます。

既存建物の活用促進

  • リノベーションや中古住宅市場の拡大
    新築住宅のコストが上昇することで、比較的安価な中古住宅の購入やリノベーションを検討する施主が増える可能性があります。
  • サステナブルな選択肢の推進
    省エネ基準が強化される中、既存建物を省エネ改修して活用する動きが加速することが期待されます。

サポート体制の重要性

  • 第三者検査機関やコンサルタントの活用
    施主が適切に建築計画を進めるために、第三者検査機関やコンサルタントのサポートが重要となります。専門家のアドバイスを受けることで、手続きのスムーズな進行や、構造や省エネに関する計画の最適化が期待できます。

具体的な対策と提案

 2025年4月の建築基準法改正により、4号特例の廃止や変更が施主や建築業界に大きな影響を与える中で、以下のような具体的な対策や提案を行うことが重要です。以下に詳しく説明します。

計画・スケジュール管理の強化

  • 余裕を持ったスケジュール作成
    法定審査期間が最大35日間に延長されたため、建築計画の初期段階から余裕を持ったスケジュールを立てることが重要です。建築確認申請前に、必要な書類や審査項目を十分に確認し、手続きにかかる時間を見積もっておくことが推奨されます。
  • 事前相談の活用
    役所や審査機関との事前相談を積極的に活用し、申請内容の適合性や提出書類の不備を事前に確認することで、申請ミスや手続き遅延を防止できます。

提出書類の整備と体制の強化

  • 構造計算書・省エネ計算書の作成支援
    新たに求められる構造計算書や省エネ計算書の作成は専門性が高いため、資格を持った設計者や専門のコンサルタントのサポートを受けることが重要です。
  • 提出書類のテンプレート化
    提出書類の作成に時間を要するため、定型的な書類のテンプレートを作成しておくことで効率的な書類作成が可能となります。

設計者・施工者の業務負担軽減策

  • 専門人材の育成と確保
    構造計算や省エネ計算の専門知識を持つ人材の育成が必要です。また、外部の専門家と提携し、設計者や施工者の業務負担を軽減することが推奨されます。
  • 業務の効率化とデジタル化の推進
    設計や書類作成業務を効率化するために、CADソフトや建築関連のデジタルツールを積極的に活用することが重要です。特に省エネ計算や構造計算を支援するソフトウェアの導入を検討しましょう。

コスト削減の工夫

  • 省エネ性能のコスト最適化
    省エネ基準の強化に伴い、断熱材や高効率設備の導入が求められます。コストと性能のバランスを考慮し、長期的なランニングコストを含めた最適な省エネ計画を立てることが重要です。
  • 資材調達の工夫
    建材のコスト上昇に対応するため、仕入れルートの見直しや、地域資材の活用などの工夫を行うことでコスト削減が期待できます。

施主への情報提供とサポート体制の強化

  • 施主向けの説明会やガイドの提供
    建築計画の初期段階から施主に対して改正内容の説明を行い、具体的な影響や手続きの流れを理解してもらうための説明会やガイドの提供が重要です。
  • 定期的な進捗報告とフォロー
    建築確認申請の進捗状況を施主に定期的に報告し、スケジュールの調整や手続き上の不明点を解消するフォロー体制を構築することが推奨されます。

リスクマネジメントの強化

  • リスクアセスメントの実施
    建築計画におけるスケジュール遅延やコスト増加のリスクを事前に把握し、リスク回避策を検討することが重要です。例えば、代替プランの策定や複数の施工業者の選定などが考えられます。
  • 第三者検査機関の活用
    設計段階や施工段階で第三者検査機関を活用し、品質確保とリスク低減を図ることが推奨されます。特に省エネや構造強度に関するチェックを強化しましょう。

中古住宅市場やリノベーションの活用促進

  • 中古住宅の省エネ改修支援
    新築のコスト負担が大きい場合、既存の中古住宅を省エネ改修して活用する選択肢が重要です。国や自治体の補助金や税制優遇措置を活用し、コスト負担を軽減することが推奨されます。
  • リノベーション事例の紹介
    成功したリノベーション事例を紹介し、中古住宅の活用を推進することで、新たな建築需要を生み出すことが期待されます。

行政との連携強化

  • 事前協議や相談の積極的活用
    法改正後の手続きや基準の適用について、行政との事前協議や相談を積極的に行い、適切な対応策を講じることが推奨されます。
  • 行政のサポート体制の活用
    行政が提供する相談窓口や支援サービスを活用し、手続き上の不安や疑問を解消することが重要です。

 これらの対策を講じることで、法改正に伴う影響を最小限に抑えつつ、効率的な建築計画と円滑な手続きが可能となります。施主や業界関係者は、早期に情報収集を行い、計画段階から十分な準備を行うことが成功の鍵となります。

終わりに

 今回の制度改正により、4号建物の確認申請が厳格化されることで、安全性が向上する一方で、申請手続きが複雑化し、費用や時間が増加するという課題が生じます。施主や工務店、設計事務所が新制度を正しく理解し、早めに対応することでトラブルを防ぎ、安心できる家づくりを進めましょう。

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