住まいを建てるうえで、地盤を安定させるためになくてはならないもの――それが「擁壁(ようへき)」です。とくに、傾斜地や高低差のある土地が多い神戸や阪神地域では、擁壁は日常の風景の一部として存在しています。しかし、普段の生活でその重要性を意識することはあまりありません。
ところが、この擁壁が崩れたり損傷したりすると、土砂が一気に流れ出し、家屋が巻き込まれる重大事故につながることがあります。擁壁の役割を正しく理解し、どんな種類があり、どのような特徴を持つのかを知ることは、住まいの安全を守る第一歩です。
(このページでは、筆者が神戸で活動しているため、神戸を基準にて擁壁について考えてみます。)
擁壁の役割 ― 住まいを支える「見えない構造物」
土砂が崩れるのを防ぐ(崩壊・土砂流出の防止)
斜面や段差のある土地では、雨で土が流れたり、地震で地盤が動くことがあります。擁壁は背面の土圧を受け止め、宅地の形状を維持する大切な構造物です。もし擁壁がなければ、家を建てるための平らな土地そのものが保てません。
家の基礎を安定させる
建物は安定した地盤の上に成り立っています。擁壁が劣化すると地盤が緩み、建物が傾いたり不同沈下の原因にもなります。擁壁の安全性は、住まい全体の安心につながります。
隣地トラブルを防ぐ
擁壁が崩れれば、自分の家だけでなく隣家や道路にも被害が及びます。擁壁の状態を把握することは、地域全体の安全とも深く関わります。
日本でよく見られる擁壁の種類
日本には、歴史や地形、建築技術の変遷に伴い、さまざまな擁壁が存在します。ここでは、一般的な住宅地で見かける擁壁を中心に、その特徴と注意点を紹介します。
石積み擁壁(布積み・谷積み・乱積みなど)
もっとも古い形式で、戦前〜昭和中期に多く使われました。
- 見た目は自然で趣がある
- しかし 無筋(鉄筋が入っていない)であることが多く、地震に弱い
- 目地の開き・膨らみ・石のズレは危険サイン
- 古い住宅地では今でも多く残り、神戸でも典型的
→ 古い石積みは専門家による診断が必須です。
間知(けんち)ブロック積み擁壁
台形の大きなブロックを積んで作られる擁壁。
- 戦後の造成ラッシュで広く普及
- 基礎や控え壁(後ろ方向の支え)が不十分な例も多い
- 裏側の排水設備が機能していないと、土圧で前に膨らむ
- 施工年代によって安全性に大きな差がある
→ 高さがある間知ブロック壁は特に注意。
無筋コンクリート擁壁(擁壁もどき)
見た目はコンクリート壁ですが、内部に鉄筋がないタイプ。
- 古い住宅や自作で造られた敷地によく見られる
- ひび割れが入りやすく、地震に極めて弱い
- 高さが1.5mを超えている場合は特に危険
→ 無筋か鉄筋入りかは見た目では判断しにくいためプロの診断が必要。
鉄筋コンクリート擁壁(RC擁壁)
現在もっとも一般的で、安全性の高い擁壁。
- 鉄筋で補強し、設計計算に基づき施工される
- 重力式・逆T字型・L型など複数の構造形式がある
- 適切に造られていれば耐震性も高い
- ただし、排水不良があるとひび割れや膨らみが発生する
装飾ブロック・軽量ブロック塀(擁壁ではないもの)
非常に危険な誤解ですが、ブロック塀は「擁壁」ではありません。
- 地面を支える構造ではない
- 基礎が浅い
- 高く積むと倒壊しやすい
- 2018年の大阪北部地震でも多く倒壊
→ ブロック塀で土を支えている場合は、早急に見直しが必要です。
どの擁壁が危険なのか?一番大切なのは「施工年代」
擁壁の種類以上に重要なのが、いつ作られた擁壁なのかという点です。
・昭和40年以前:法規制がほぼなく、危険な擁壁が大量
・昭和40〜50年代:造成ラッシュで質がバラバラ
・平成以降:法律が整い、安全性が向上
古い擁壁ほど、見た目だけでは判断できないリスクが高いのが現実です。
まとめ:擁壁の種類を知ることが安全への第一歩
擁壁は家の「もう一つの基礎」とも言える重要な存在です。種類ごとの特徴と施工時期を理解することで、土地の安全性を正しく判断できるようになります。次の章では、実際にどのように擁壁の危険性を見分ければよいのかを詳しく紹介します。

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