住宅トラブルが起きたとき、「設計が悪いのか」「施工が悪いのか」「誰もチェックしていなかったのか」という疑問を持つ方は少なくありません。
しかし、これらを正しく判断するためには、設計・施工・監理がそれぞれ何を担い、どこまで責任を負う立場なのかを整理して理解する必要があります。
役割の違いを知らないまま責任を論じてしまうと、本来の問題点が見えなくなり、解決から遠ざかってしまいます。
設計の役割と責任 ― 「こう建てる」という方針を決める立場
設計とは、建物の形や性能、使い勝手、安全性を図面や仕様書という形で具体化する仕事です。設計者の主な役割は、
- 建て主の要望を整理し、設計としてまとめる
- 建築基準法や関連法規に適合した計画を行う
- 構造・防水・断熱・設備などを総合的に検討する
といった点にあります。そのため、設計に関する責任とは、
- 設計内容そのものに無理や矛盾がないか
- 法令違反や明らかな不備がないか
- 通常求められる注意を尽くして設計されているか
という点が問われます。ただし、設計図通りに施工されていない場合まで、すべて設計者の責任になるわけではありません。
施工の役割と責任 ― 実際に「形にする」立場
施工とは、設計図書に基づいて、実際に建物をつくる仕事です。施工者の役割は、
- 設計図や仕様書を正しく理解し、施工する
- 材料や工法を適切に選び、品質を確保する
- 現場での施工管理を行う
ことにあります。施工に関する責任としては、
- 図面通りに施工されているか
- 明らかな施工ミスや手抜きがないか
- 通常の施工者であれば気づくべき不具合を見逃していないか
といった点が判断の対象になります。一方で、設計図そのものに無理がある場合や、設計上の判断を超える内容については、施工者だけに責任を負わせられないケースもあります。
監理の役割と責任 ― 「設計通りにつくられているか」を確認する立場
監理(工事監理)とは、工事が設計図書どおりに行われているかを確認する役割です。工事監理者は、
- 施工状況を設計図と照らし合わせて確認する
- 不適切な施工を見つけた場合に是正を求める
- 設計意図が正しく反映されているかを確認する
という立場にあります。ここで重要なのは、監理は「常に現場に張り付いて施工を管理する仕事」ではないという点です。監理の責任は、
- 確認すべき場面で、適切な確認を行っていたか
- 明らかな不具合を見逃していないか
- 設計意図から外れる施工に対して、適切な指摘をしていたか
といった観点で判断されます。
なぜ責任が分かりにくくなるのか
住宅トラブルでは、
- 設計・施工・監理を同一の会社が担っている
- 契約内容が曖昧で役割分担が明確でない
- 建て主が「誰が何をしているのか」を知らない
といった状況が少なくありません。このような場合、本来は分けて考えるべき役割と責任が混在し、「誰が悪いのか分からない」状態になってしまいます。
判断の基本姿勢 ― 役割ごとに、冷静に整理する
設計・施工・監理の責任を考える際には、
- どの段階で問題が生じているのか
- その段階を担っていたのは誰か
- その立場として、通常求められる注意が尽くされていたか
という順序で、役割ごとに整理することが大切です。感情的に「全部まとめて誰かの責任にしたい」と思ってしまう気持ちは自然ですが、それでは正しい解決にはつながりません。
まとめ ― 役割を知ることが、責任を考える第一歩
住宅トラブルにおいて責任を考えるためには、まずそれぞれの役割を正しく知ることが欠かせません。設計・施工・監理は、同じ「家づくり」に関わっていても、その役割や立場はまったく異なります。
責任とは、結果だけを見て一律に判断されるものではなく、その人や組織が担っていた役割と業務範囲に応じて判断されるものです。どの段階で、誰が、何を行う立場にあったのかを整理しなければ、正しい判断にはたどり着けません。
役割を混同したまま話を進めてしまうと、問題の本質が見えなくなり、不要な対立や誤解を生みやすくなります。感情的な納得を優先してしまうと、かえって解決から遠ざかることもあります。だからこそ、事実と役割を一つずつ冷静に整理することが重要です。その積み重ねこそが、現実的で納得のいく解決につながっていくのです。

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