原因と責任は別物

住宅トラブルでは、「なぜ起きたのか」という原因と、「誰が責任を負うのか」は別物です。本記事では、原因と責任を切り分けて整理する重要性と、冷静な解決への考え方を建築士の視点から解説します。 欠陥住宅・住宅トラブル特集
「なぜ起きたか」と「誰が責任を負うか」は、同じではありません

 住宅トラブルに直面したとき、多くの方がまず考えるのは「いったい誰のせいなのか」という点ではないでしょうか。しかし、ここで一度立ち止まって考えていただきたい大切な視点があります。

 それは、「原因」と「責任」は、必ずしも一致しないということです。この区別を誤ると、問題解決が遠のくだけでなく、不要な対立や感情的な紛争へと発展してしまうことも少なくありません。

原因とは何か― 事実として「何が起きているのか」を明らかにすること

 ここでいう「原因」とは、建物に不具合が生じた直接的・技術的な理由を指します。たとえば、次のようなケースです。

  • 外壁にひび割れが生じている
  • 雨漏りが発生している
  • 建物が傾いている
  • 断熱性能が設計通り確保されていない

 これらについて、「どこで」「どのような施工や判断が行われ」「なぜその結果になったのか」を、客観的な事実と技術的根拠に基づいて整理することが、原因の特定です。原因の整理は、

 ✔ 現地調査
 ✔ 図面・契約書の確認
 ✔ 建築基準や設計基準との照合

といった、冷静で専門的な作業によって行われます。

責任とは何か― 法的・契約的に「誰がどこまで負うのか」

 一方で「責任」とは、その原因に対して、誰がどの範囲で責任を負う立場にあるのかという問題です。ここでは、次のような要素が関係してきます。

  • 契約書にどのような取り決めがあるか
  • 設計者・施工者・監理者の業務範囲
  • 法律上の責任(瑕疵担保責任・契約不適合責任など)
  • 注意義務違反や説明義務違反があったか

 つまり、原因が分かったからといって、そのまま責任の所在が自動的に決まるわけではないという点が、非常に重要なのです。

よくある誤解― 原因=責任だと思い込んでしまう

 住宅トラブルの現場で、特に多い誤解があります。

「施工が原因なら、施工会社が全部悪い」
「設計図に問題があったなら、設計者の責任だ」

 一見もっともらしく聞こえますが、実際にはそう単純ではありません。たとえば、

  • 設計に問題があっても、施工者が気づけた可能性はなかったか
  • 施工に問題があっても、設計や監理のチェック体制はどうだったか
  • 発注者(建て主)の判断や要望が影響していないか

といったように、原因が一つでも、責任は複数に分かれることもあります。

なぜ「切り分け」が必要なのか

 原因と責任を混同したまま話を進めると、

  • 感情的な対立が先行する
  • 相手が防御的になり、話し合いが進まない
  • 本来可能だった是正や補修の機会を失う
  • 結果として、紛争・裁判に発展する

といった事態を招きやすくなります。逆に、

  1. まず 原因を冷静に整理する
  2. その上で 責任の範囲を客観的に考える

という順序を守ることで、問題解決の選択肢は大きく広がります。

専門家の役割― 「裁く」のではなく、「整理する」

 住宅調査や建築の専門家は、誰かを責めたり、白黒をつけるために存在しているわけではありません。専門家の本来の役割は、

  • 起きている事実を正確に把握する
  • 原因を技術的に整理する
  • 感情論ではなく、判断材料を提示する

ことにあります。この「整理された情報」があってこそ、建て主自身が冷静な判断を下すことができ、
次の一歩(補修・交渉・相談)を選ぶことができるのです。

まとめ

 住宅トラブルを考えるうえで、最初に理解しておきたいのが、「原因」と「責任」は別の次元の問題であるということです。

 原因とは、「なぜその不具合が起きたのか」という事実に基づく問題です。どこで、どのような施工や判断が行われ、その結果として現在の状態が生じているのかを、客観的に整理することが求められます。

 一方で、責任とは、「その原因に対して、誰がどこまで責任を負う立場にあるのか」という契約や法律に基づく問題です。ここでは、契約内容や業務範囲、法的な義務がどのように定められているかが判断の軸になります。

 この二つを混同してしまうと、感情的な対立が先行し、話し合いは進まず、結果として問題解決から遠ざかってしまいます。だからこそ、住宅トラブルに向き合う際には、まず原因を冷静に整理することが何よりも大切です。事実を正しく把握し、その上で責任の範囲を考える――それが、後悔のない解決へ進むための最初の一歩なのです。

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