前章で、断熱材の性能は
✔ 熱伝導率(λ値)
✔ 厚み
✔ 施工精度
で決まることを学びました。では実際に、どのような種類の断熱材があるのでしょうか?
繊維系断熱材
― 空気を“絡め取って”断熱するタイプ ―
繊維の間に空気を含ませて断熱する材料です。本質は「空気層」です。
グラスウール
■ 特徴
- ガラスを高温で溶かして繊維化し、マット状・ボード状に加工した断熱材。
- 日本で最も多く使われている断熱材です。
λ値はおおよそ 0.038前後(製品により異なる)。
■ メリット(なぜ広く使われているのか)
✔ コストパフォーマンスが非常に高い
✔ 不燃材料で火災時も燃えにくい
✔ 吸音性が高く、生活音対策にも効果的
✔ 施工経験のある業者が多い
つまり、
「きちんと施工されれば非常に優秀」
な材料です。
■ デメリット(本当の問題点)
⚠ 施工精度で性能が大きく変わる
⚠ たるみ・圧縮・隙間で性能低下
⚠ 防湿層が甘いと結露リスク
現場でよく見かける施工不良は、
- 柱間に隙間
- コンセント周りのスカスカ
- 上部のよれ・落ち込み
などです。断熱材は「入っている」だけでは意味がありません。
■ 施工上の重要チェックポイント
✅ 柱間にぴったり充填されているか
✅ 圧縮しすぎていないか
✅ 上部が落ちていないか
✅ 防湿シートが破れていないか
✅ 気密テープ処理がされているか
■ 向いている住宅
✔ 在来木造
✔ コストを抑えたい住宅
✔ 監理がしっかりできる現場
■ コスト感
- 最も安価な部類。
- 断熱材の中では基準的存在。
ロックウール
■ 特徴
玄武岩などの鉱物を溶かして繊維化。
λ値は 約0.038〜0.045程度。
■ メリット
✔ 非常に高い耐火性能
✔ 防音性が高い
✔ 比較的湿気に強い
火災安全性を重視する住宅に向きます。
■ デメリット
⚠ 重量がある
⚠ グラスウールより高価
⚠ 施工性はやや劣る
■ 向いている住宅
✔ 防火地域
✔ 準耐火構造
✔ 音を重視する住宅
セルロースファイバー
■ 特徴
- 新聞紙をリサイクルし、ホウ酸などを添加。
- 吹込み施工。
λ値は 約0.040前後。
■ メリット
✔ 調湿性がある
✔ 隙間充填性が高い
✔ 防音性能が高い
✔ エコ志向にマッチ
■ デメリット
⚠ 施工業者が限られる
⚠ 価格は高め
⚠ 密度不足だと沈下
密度管理が命です。
■ 向いている住宅
✔ 自然素材志向
✔ 高気密住宅
✔ 夏の遮熱も重視する家
インシュレーションファイバー(木質繊維)
■ 特徴
木質繊維を板状に成形。
λ値は 約0.040前後。
■ メリット
✔ 調湿性
✔ 蓄熱性が高い
✔ 自然素材
夏の熱を遅らせる効果(位相差)が大きい。
■ デメリット
⚠ 高価
⚠ 防水設計が重要
⚠ 施工できる業者が限られる
発泡プラスチック系断熱材
― 空気を“閉じ込める”タイプ ―
気泡の中に空気やガスを閉じ込める構造。
EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム)
λ値:約0.034〜0.040
■ メリット
✔ 軽量
✔ 比較的安価
✔ 外断熱向き
■ デメリット
⚠ 紫外線に弱い
⚠ 防火対策が必要
XPS(押出法ポリスチレンフォーム)
λ値:約0.028〜0.034
■ メリット
✔ 水に非常に強い
✔ 基礎断熱向き
✔ 強度が高い
■ デメリット
⚠ 価格はやや高い
⚠ 通気層設計が重要
硬質ウレタンフォーム
λ値:約0.022〜0.028
■ ボードタイプ
✔ 非常に高断熱
✔ 薄くても性能が出る
⚠ 高価
■ 現場発泡タイプ
✔ 隙間が少ない
✔ 気密と相性抜群
⚠ 技量差が出やすい
⚠ 厚み管理が重要
ポリエチレンフォーム
- 軽量で防水用途向き。
- 断熱材としては補助的。
フェノールフォーム
λ値:約0.020前後(非常に小さい)
■ メリット
✔ 業界トップクラスの断熱性能
✔ 防火性が高い
■ デメリット
⚠ 高価
⚠ 割れやすい
コストイメージ(一般傾向)
安い
グラスウール
↓
EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム)
↓
XPS(押出法ポリスチレンフォーム)
↓
ウレタンフォーム
↓
フェノールフォーム
高い
※ただし厚みや工法で逆転します。
断熱材比較表
繊維系断熱材
| 材料 | 断熱の仕組み | 熱伝導率(λ値)目安 | 価格帯 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| グラスウール | 空気を絡める | 約0.035〜0.040 | 比較的安い | 壁・天井・床 | 不燃・防音性◎ |
| ロックウール | 空気を絡める | 約0.038〜0.045 | やや高め | 壁・天井 | 耐火性◎・防音◎ |
| セルロースファイバー | 空気を絡める(吹込) | 約0.040前後 | やや高い | 壁・天井 | 調湿性◎・防音◎ |
| 木質繊維(インシュレーションファイバー) | 空気を絡める | 約0.040前後 | 高め | 壁・屋根 | 調湿・蓄熱性◎ |
発泡プラスチック系断熱材
| 材料 | 断熱の仕組み | 熱伝導率(λ値)目安 | 価格帯 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| EPS(ビーズ法) | 空気を閉じ込める | 約0.034〜0.040 | 比較的安い | 外断熱・基礎 | 軽量 |
| XPS(押出法) | 空気を閉じ込める | 約0.028〜0.034 | やや高い | 基礎・外断熱 | 水に強い・強度◎ |
| 硬質ウレタンフォーム | 気泡にガス封入 | 約0.022〜0.028 | 高め | 壁・屋根 | 高断熱 |
| フェノールフォーム | 気泡にガス封入 | 約0.020前後 | 高い | 壁・屋根 | 非常に高断熱・防火性◎ |
R値換算比較表(代表値で計算)
※λ値は代表的な中央値で計算
※厚み100mm=0.10m
※厚み50mm=0.05m
繊維系断熱材
| 材料 | λ値(代表) | R値(50mm) | R値(100mm) |
|---|---|---|---|
| グラスウール | 0.038 | 1.32 | 2.63 |
| ロックウール | 0.040 | 1.25 | 2.50 |
| セルロース | 0.040 | 1.25 | 2.50 |
| 木質繊維 | 0.040 | 1.25 | 2.50 |
発泡系断熱材
| 材料 | λ値(代表) | R値(50mm) | R値(100mm) |
|---|---|---|---|
| EPS | 0.036 | 1.39 | 2.78 |
| XPS | 0.030 | 1.67 | 3.33 |
| 硬質ウレタン | 0.024 | 2.08 | 4.17 |
| フェノールフォーム | 0.020 | 2.50 | 5.00 |
見えてくること
100mmで比較すると
フェノールフォーム(R=5.0)
↓
ウレタン(R=4.17)
↓
XPS(R=3.33)
↓
EPS(R=2.78)
↓
グラスウール(R=2.63)
100mm施工時の性能比較(R値で比較)
前提:厚み100mm=0.10m
計算:R=0.10 ÷ λ
(※λ値は代表値。製品グレードで前後します)
100mm施工時のR値一覧(大きいほど高性能)
| 材料 | λ値(代表)W/mK | R値(100mm)㎡K/W | 性能の目安 |
|---|---|---|---|
| フェノールフォーム | 0.020 | 5.00 | 非常に高い |
| 硬質ウレタンフォーム | 0.024 | 4.17 | とても高い |
| XPS(押出法ポリスチレン) | 0.030 | 3.33 | 高い |
| EPS(ビーズ法ポリスチレン) | 0.036 | 2.78 | やや高い |
| グラスウール | 0.038 | 2.63 | 標準〜やや高い |
| ロックウール | 0.040 | 2.50 | 標準 |
| セルロースファイバー | 0.040 | 2.50 | 標準 |
| 木質繊維ボード | 0.040 | 2.50 | 標準 |
100mmでの“差”を直感的に(グラスウール比)
基準:グラスウール100mm(R=2.63)= 1.00 として比較
| 材料 | R値(100mm) | グラスウール比 |
|---|---|---|
| フェノールフォーム | 5.00 | 1.90倍 |
| 硬質ウレタンフォーム | 4.17 | 1.59倍 |
| XPS(押出法ポリスチレン) | 3.33 | 1.27倍 |
| EPS(ビーズ法ポリスチレン) | 2.78 | 1.06倍 |
| グラスウール | 2.63 | 1.00倍 |
| ロックウール | 2.50 | 0.95倍 |
| セルロース | 2.50 | 0.95倍 |
| 木質繊維 | 2.50 | 0.95倍 |
表より判ること
100mmという同じ厚みでも、材料で最大「約2倍」の差が出る。ただし、その差が住宅全体の快適性にそのまま2倍効くわけではありません。
理由は:
- 窓の性能(ここが最大の弱点になりやすい)
- 断熱欠損(隙間・つぶれ・欠け)
- 気密(すき間風=対流)
- 熱橋(構造体や金物で熱が逃げる)
があるからです。
失敗しないための注意
材料より「施工品質」の影響が大きい場面があります。たとえば、グラスウールでも隙間なく、たるみなく、気密層まで丁寧にやると強い。逆に、高性能ボードでも継ぎ目・端部処理が甘いと「熱が抜ける道」ができてしまう。
断熱材は「高い材料ほど安心」ではなく、
「その材料を確実に施工できる体制があるか」で決まります。
断熱材を決める際の注意点
断熱材にはさまざまな種類があるということを説明しました。しかし、最も大切なのは「どの材料か」よりも、「どう使うか」です。ここでは、材料を選ぶ際に押さえておくべきポイントを整理します。
材料名だけで判断しない
「ウレタンだから高性能」、「グラスウールだから安いだけ」このような単純な判断は危険です。断熱性能は、
✔ 熱伝導率(λ値)
✔ 厚み
✔ 施工精度
で決まります。同じ材料でも厚みが違えば性能は全く変わります。
カタログ値より“実際の施工”
カタログのλ値は理想状態の数値です。しかし現場では、
⚠ 隙間
⚠ 圧縮
⚠ よれ
⚠ 防湿不良
⚠ 気密処理不足
などで性能が大きく落ちることがあります。断熱材は「入っている」ことが重要なのではなく、「正しく施工されている」ことが重要です。
断熱材単体では家は決まらない
HEAT20 G2やZEHを目指す場合、
✔ 窓性能
✔ 気密性能(C値)
✔ 換気計画
✔ 日射取得・遮蔽設計
が断熱材以上に影響します。断熱材はあくまで“構成要素の一つ”です。
コストだけで選ばない
安価な材料でも、厚みを増やせば高性能になります。逆に高価な材料でも、
- 厚みが不足
- 施工が甘い
と意味がありません。重要なのは、
「予算の中で、最も合理的な断熱設計をすること」
です。
施工体制を確認する
施主が必ず確認したいのは、
✔ 断熱施工写真を見せてもらえるか
✔ 気密測定を行うか
✔ 防湿施工のチェック体制があるか
材料よりも“会社の姿勢”が重要です。
将来のメンテナンス性
断熱材は壁の中に入ります。
✔ 湿気管理はどうするのか
✔ 経年劣化はどう考えるのか
✔ シロアリ対策は?
長期視点で考えることが重要です。
最後に
断熱材選びで最も大切なのは、
「材料の優劣」ではなく、「家全体の設計思想」
です。高断熱は材料で決まるのではありません。設計と施工で決まります。
断熱材は魔法の材料ではない。正しく設計され、正しく施工されて初めて力を発揮する。
