住宅トラブルに直面したとき、怒り、不安、後悔、悔しさ――さまざまな感情が一気に押し寄せてくるのは、ごく自然なことです。
「こんな家になるなんて思っていなかった」
「なぜ、もっとちゃんと説明してくれなかったのか」
「誰かが悪いはずだ」
そう感じるのは当然です。住まいは、人生で最も大きな買い物であり、生活そのものだからです。しかし、感情と事実を混同したまま判断を進めてしまうと、問題解決は一気に難しくなります。
感情は「間違い」ではない ― ただし、そのまま判断に使ってはいけない
まず大切なこととして、感情そのものが悪いわけではありません。怒りや不安は、「何かおかしい」「このままでは納得できない」という心のサインでもあります。
問題なのは、その感情をそのまま「判断材料」にしてしまうことです。たとえば、
- 怒っているから、相手は全面的に悪いはずだ
- 不安だから、すべて最悪のケースに違いない
- 悔しいから、誰かに責任を取らせたい
このように感情が先行すると、事実の確認や冷静な整理が後回しになってしまいます。
事実とは何か ― ただし、そのまま判断に使ってはいけない
一方で、事実とは、
- 実際に何が起きているのか
- どこに、どのような不具合があるのか
- 図面・契約・法律上はどうなっているのか
といった、感情とは切り離して確認できる情報です。事実は、
✔ 現地調査
✔ 写真・記録
✔ 図面・契約書
✔ 技術的な判断
といった形で、第三者とも共有できます。逆に言えば、事実として説明できないものは、判断の根拠にはなりません。
感情が前に出ると、何が起きるのか
住宅トラブルが紛争に発展する多くのケースでは、次のような流れが見られます。
- 不安や怒りが強くなる
- 相手を「敵」として見てしまう
- 話し合いが責任追及中心になる
- 相手も防御的になり、事実確認が進まない
こうして、本来は是正や補修で解決できた可能性が、裁判や長期紛争に発展してしまうことも少なくありません。
専門家が「冷静さ」を重視する理由
建築士や調査の専門家が、感情的な断定を避け、「まず事実を整理しましょう」と繰り返すのには理由があります。それは、感情では建物は直らないからです。
- どこを、どう直せばよいのか
- 現実的な選択肢は何があるのか
- どこまで求めることが可能なのか
これらはすべて、事実を土台にして初めて考えられることです。専門家は、誰かの味方や敵になるためではなく、判断のための材料を整える役割を担っています。
切り分けるための考え方 ― 感情は「脇に置く」
感情と事実を切り分けるために、次のように考えてみてください。
- 感情は否定しない
- ただし、一旦「脇に置く」
- 事実を先に整理する
- 判断は、その後に行う
「今は納得できない」
「腹が立っている」
そう感じていても構いません。ただ、その気持ちを抱えたまま、まずは事実を一つずつ整理することが大切です。
まとめ
住宅トラブルに直面したときに湧き上がる怒りや不安、戸惑いといった感情は、決して特別なものではなく、ごく自然な反応です。無理に押さえ込んだり、感じてはいけないものとして否定する必要はありません。
ただし、その感情をそのまま判断の軸にしてしまうと、冷静な状況把握が難しくなります。判断は、あくまで事実に基づいて行うべきものです。何が起きているのか、どこに問題があるのかを客観的に確認することが、解決への前提となります。
感情が先行すると、相手への不信や対立意識が強まり、話し合いが進まず、結果として解決から遠ざかってしまうことも少なくありません。
だからこそ、まずは感情を一旦脇に置き、事実を整理することが大切です。その上で、補修を行うのか、相談を重ねるのか、次に取るべき行動を冷静に考えていく――それが、後悔のない判断につながっていくのです。

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