建物に生じるひび割れの多くは、施工後の「養生(ようじょう)」が不十分であることが原因です。
とくにモルタルやコンクリートなど、水を含む材料は、乾燥や温度・湿度によって硬化の状態が大きく左右されます。この章では、ひび割れを防ぐために欠かせない「養生」と「乾燥管理」の考え方・方法を詳しく解説します。
養生とは何か?
「養生」とは、建材(特にセメント系材料)が打設されたあと、適切な温度・湿度・水分を保ち、ひび割れを起こさずに強度を発現させるための保護作業です。硬化を安定させるための“見えない工程”ともいえます。
養生の主な目的
項目 | 内容 |
---|---|
水分保持 | 水分が早く抜けすぎると収縮してクラックが発生する |
温度管理 | 寒冷期や真夏に温度差が激しいと急激な硬化が起きる |
表面保護 | 風・直射日光・雨・霜などによる物理的な影響を防ぐ |
養生は“割れないコンクリート・モルタル”をつくるための最終工程です。
養生不足が招く典型的なひび割れ
材料 | 発生するクラックの種類 | 原因 |
---|---|---|
モルタル | ヘアクラック、面状クラック | 表面が急激に乾燥して収縮 |
コンクリート | マッピングクラック、貫通割れ | 打設直後の乾燥・凍結・打ち重ね不良 |
ALCパネル | 接合部のシーリング割れ | 施工後に早く乾燥しすぎた |
とくに初期7日間の養生が重要であり、その期間の管理がひび割れリスクを大きく左右します。
正しい養生方法の具体例
● モルタル塗り仕上げの養生
養生内容 | 解説 |
---|---|
湿潤養生 | 表面に霧吹きや濡れた布で保水する(数日間) |
養生シート | ビニールや不織布で日光・風から保護する |
外気温対応 | 夏は日射除け、冬は防寒・保温対策を併用 |
コンクリート打設後の養生
養生内容 | 解説 |
---|---|
敷き込み養生 | 打設後すぐにシートをかけて乾燥防止 |
散水養生 | 特に夏場、朝夕に水をまいて温度と湿度を安定させる |
凍結防止 | 冬場は保温シート・加温機器で凍結を防ぐ |
季節・天候・現場条件に応じて、適切な養生方法を選ぶことが重要です。
「乾燥管理」=見えない環境を読む目が必要
施工現場では、気温・湿度・風速・直射日光などの条件が日々変わります。
これらの影響を予測して養生方法を選ぶ「乾燥管理」は、職人の経験と判断力が問われる重要な工程です。
乾燥管理の工夫ポイント
- 天気予報を確認し、風が強い日・高温日・低湿度の日は特に注意
- 南面や西面は日射の影響が強いため、朝~昼の施工を避ける
- 直後の雨予報がある場合は、しっかりと防水シートを準備しておく
適切な乾燥管理は、「美しい仕上がり」だけでなく、「耐久性の確保」にもつながります。
まとめ:「見えないところで差がつく」ひび割れ対策の要
養生が不十分な場合 | 正しく養生した場合 |
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表面が早く乾いてクラックが発生 | しっかりと水分を保ち、強度と仕上がりが安定 |
冬場に凍結・破壊のリスク | 保温対策で健全な硬化を維持 |
数年後に外壁や床が剥がれる原因に | 長期的な美観と性能を維持可能 |
「ちゃんと養生してますか?」この問いかけが、ひび割れのある家とない家を分ける分岐点です。
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