危険な擁壁と判断された場合、必ずしもすべてが「撤去・やり替え」になるわけではありません。調査の結果、
・擁壁自体の形状は保たれている
・崩壊には至っていない
・適切な対策を行えば安定性が回復できる
と判断されれば、補強工法による対応が選択されます。補強工法とは、既存の擁壁を活かしながら、安全性を高める方法です。
補強工法を選ぶ際の基本的な考え方
補強工法は、擁壁の
・構造形式（コンクリート・石積み・ブロックなど）
・劣化の進行度
・背面地盤の状態
・周辺環境（住宅・道路・隣地）
によって、適・不適が大きく異なります。「安いから」「簡単そうだから」ではなく、原因に合った補強を選ぶことが最も重要です。
表面補修・部分補修による補強
ひび割れ補修・断面修復
比較的軽微な劣化の場合には、
・ひび割れへの樹脂注入
・欠損部の断面修復
といった表面補修が行われます。ただし、これはあくまで劣化の進行を抑えるための補助的な対策であり、構造的な補強ではありません。擁壁がすでに前に出ている場合や、土圧に耐えられない状態では、単独での採用は危険です。
排水機能を回復させる補強
排水孔の増設・排水改善
擁壁トラブルの多くは、排水不良が原因です。そのため、
・排水孔の新設
・詰まった排水孔の清掃
・背面排水の改善
といった対策は、非常に効果的です。水を抜くだけで安定性が大きく改善するケースも少なくありません。ただし、排水改善だけで十分かどうかは、必ず専門家の判断が必要です。
アンカー工法による補強
地盤アンカー・ロックアンカー
擁壁が前方へ動こうとする力に対して、背面の地盤と一体化させて引き止めるのがアンカー工法です。
・鋼材を地盤に打ち込み
・擁壁と地盤を固定する
ことで、土圧に抵抗します。比較的施工性が良く、敷地条件が許せば有効な補強方法です。ただし、
・背面地盤の強度
・アンカーの定着長
が確保できない場合は、期待した効果が得られないこともあります。
擁壁前面に構造体を追加する補強
控え壁・増設擁壁
既存擁壁の前面に、控え壁や補強用のコンクリート壁を設け、土圧を分散させる方法です。特に、
・石積み擁壁
・間知石積み擁壁
では、比較的多く採用されます。ただし、敷地が狭い場合や道路や隣地に近い場合には、施工が難しくなる点に注意が必要です。
背面地盤を改良する補強
地盤改良・裏込め補強
擁壁そのものよりも、背面地盤が弱いことが原因の場合には、
・背面の土を入れ替える
・地盤改良材を用いる
といった補強が行われます。この方法は効果が高い反面、工事範囲が大きい、費用がかかるという特徴があります。
二段擁壁・混在構造の場合の補強の難しさ
二段擁壁や、構造の異なる擁壁が組み合わさっている場合、
・部分補強では不十分
・連鎖的な不安定化が起きやすい
という問題があります。この場合は、全体を一体として再評価した上での補強が必要となり、場合によってはやり替えが現実的な選択となることもあります。
補強工法の選択は「調査結果」がすべて
補強工法に正解は一つではありません。重要なのは、なぜ危険になっているのか、どこが弱点なのかを正しく把握することです。調査結果を無視した補強は、一時しのぎにしかならないことを忘れてはいけません。
まとめ：補強は「原因に合わせて選ぶ」
擁壁の補強工法は多岐にわたりますが、共通して言えるのは、原因を特定し、適した工法を選び、無理な延命をしない、この三点が重要だということです。
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