不動産情報を見ていると、「擁壁あり」「造成済み」「ひな壇造成」といった言葉をよく目にします。一見すると、すでに整備されていて安心できそうに感じますが、擁壁がある=安全な土地とは限りません。むしろ、擁壁の状態や造られた時代によっては、将来大きなリスクを抱えた土地である可能性もあります。家は建て替えや補修ができますが、土地と擁壁は簡単にやり直せない――それが、この問題の本質です。
「買ってはいけない擁壁」とは何か
ここで言う「買ってはいけない擁壁」とは、今すぐ崩れそうな擁壁だけを指しているわけではありません。ポイントは次の3つです。
- 将来的に 安全性が確保できない可能性が高い
- 補修や補強が現実的でない
- 問題が起きたときに 多額の費用や法的制約が生じる
こうした擁壁は、購入時点では問題が表面化していなくても、数年〜数十年後に「取り返しのつかない負担」としてのしかかってきます。
典型的な「避けるべき擁壁」の特徴
● 古い基準で造られた無筋コンクリート擁壁
昭和期につくられた擁壁の中には、鉄筋が入っていない無筋コンクリート擁壁が数多く存在します。
これらは地震時の横揺れに極端に弱く、ひび割れや転倒、滑動のリスクを常に抱えています。見た目がきれいでも、構造的な安全性が不足しているケースは珍しくありません。
● 石積み・間知石積み擁壁(控えが不明なもの)
石積みや間知石積み擁壁は、伝統的で美しく見える反面、
- 背面の構造が分からない
- 控え壁や裏込めの状況が不明
- 地震時の挙動が読みにくい
といった問題があります。特に、宅地造成工事規制法以前に造られたものは、
現在の安全基準を満たしていない可能性が高く、購入時には要注意です。
● ブロック積擁壁・二段擁壁
コンクリートブロックを積み上げただけの擁壁や、下段が擁壁、上段がブロック塀になっている二段擁壁は、非常に危険度が高い構成です。これらは、
- 構造計算がされていない
- 排水計画が不十分
- 地震時に上部から倒壊しやすい
という特徴があり、「擁壁として扱えない」ケースも少なくありません。
「直せばいい」とは限らない現実
危険な擁壁を見て、「あとで補強すればいい」「建て替えのときに直そう」と考える方もいます。しかし実際には、
- 作り替えには 数百万円〜数千万円かかる
- 敷地条件や隣地の関係で 工事ができない
- 法律上、現状より不利になるケースもある
といった現実があります。つまり、買ったあとにどうにもならない擁壁も、確実に存在するのです。
不動産広告では見えないリスク
不動産広告や重要事項説明では、擁壁の詳細な安全性までは説明されないことがほとんどです。
- 「造成済み」と書かれている
- 「現況有姿」とされている
- 擁壁が既存扱いで深く触れられない
こうした場合、判断を求められるのは購入者自身になります
「知らなかった」では済まされない問題
擁壁は、ひとたび事故が起これば、
- 家屋の損壊
- 人身事故
- 隣地との深刻なトラブル
につながる可能性があります。そしてその責任は、所有者であるあなた自身が負うことになります。だからこそ、「買ってはいけない擁壁」を知ることは、安全な住まいづくりの第一歩なのです。
まとめ
擁壁付きの土地は、一見すると整備されていて安心できそうに見えます。しかし実際には、擁壁の構造や造られた時代、現在の状態によって、安全性には大きな差があります。特に、古い基準で造られた無筋コンクリート擁壁、石積み・間知石積み擁壁、ブロック積擁壁や二段擁壁は、将来的に大きなリスクを抱えている可能性が高く、購入前に慎重な判断が必要です。
「あとで直せばいい」と考えがちですが、擁壁の補修や作り替えは簡単ではなく、費用や法規制、敷地条件によっては対応できないケースも少なくありません。不動産広告や重要事項説明では、擁壁の安全性まで十分に説明されないことが多く、最終的な判断を求められるのは購入者自身です。
擁壁は、家と違って簡単にやり直せない「土地の一部」です。だからこそ、購入前にリスクを知り、避けるべき擁壁を見抜くことが、後悔しない住まいづくりにつながります。

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