地震による擁壁の崩壊というと、「強い揺れで一気に崩れ落ちる」というイメージを持たれがちです。しかし実際には、多くの擁壁崩壊は地震だけが原因ではありません。長年の劣化や排水不良、地盤条件といった問題を抱えた擁壁が、地震をきっかけに限界を超えることで発生します。
ここでは、過去の地震被害でも繰り返し見られてきた、擁壁崩壊の典型的なパターンを紹介します。
パターン① 擁壁が前に倒れ込む(転倒型)
比較的多いのが、擁壁が前方へ倒れ込むように崩れるケースです。特に、
・高さがある擁壁
・背面に水がたまりやすい擁壁
・無筋コンクリート擁壁
では、地震の横揺れによって背面土圧が一気に増加し、擁壁が支えきれなくなります。このタイプの崩壊は、擁壁の上にある宅地や建物ごと動くことがあり、被害が非常に大きくなります。
パターン② 石積み・間知石積みがバラバラに崩れる
石積み擁壁や間知石積み擁壁は、見た目が重厚で丈夫そうに見えます。
しかし、多くの古い石積み擁壁は、
・モルタルで固められていない
・鉄筋などの補強がない
といった構造です。地震の揺れによって、石同士のかみ合わせが外れ、一部が抜け落ちる → 全体が連鎖的に崩れるという形で崩壊が進行します。このタイプは、最初は小さな崩れに見えても、二次被害が起きやすいのが特徴です。
パターン③ 擁壁が割れ、ずれて崩れる(せん断・滑動型)
鉄筋コンクリート擁壁で多く見られるのが、擁壁に大きな亀裂が入り、上下または前後にずれる崩壊です。
・基礎が浅い
・背面の地盤が弱い
・施工時の配筋不足
といった問題を抱えている場合、地震の揺れによって擁壁が滑るように動き、破断します。このケースでは、「完全に倒れてはいないが、明らかに危険な状態」となり、使用不能・立ち入り禁止になることも少なくありません。
パターン④ 2段擁壁が連鎖的に崩れる
特に注意が必要なのが、2段擁壁です。上下に擁壁が分かれている場合、地震時には、
・上段擁壁が先に動く
・その荷重が下段に集中する
という現象が起こります。結果として、下段擁壁が耐えきれず一気に崩壊することがあります。2段擁壁は見た目以上に危険性が高く、専門家でも慎重な判断が必要とされる構造です。
パターン⑤ 擁壁は残り、背後の地盤が崩れる
必ずしも「擁壁そのもの」が崩れるとは限りません。排水不良や盛土の締固め不足があると、地震によって擁壁の背後の土が崩れ落ちることがあります。この場合、
・宅地が陥没する
・建物が傾く
・擁壁自体も後から不安定になる
といった、時間差での被害拡大が起こりやすくなります。
まとめ:壊れる擁壁には理由がある
ここまで見てきたように、擁壁崩壊には、いくつかの典型的なパターンがあります。そして共通しているのは、「もともと弱点を抱えていた擁壁が、地震によって表面化した」という点です。つまり、地震は原因ではなく“引き金”であるというケースが非常に多いのです。

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