中古住宅を調査する際、内部仕上げの状態は、建物の「履歴」や「現在の健康状態」を読み取るための重要な手がかりとなります。壁や天井、床、建具といった内装部分には、これまでの暮らし方や経年劣化、さらには構造的な問題が、さりげなく表れています。
たとえば、壁のひび割れや天井の雨染みは、建物の動きや過去の漏水の痕跡を示していることがあります。床のへこみやきしみ、建具の開閉のしにくさからは、床組や構造の歪みを読み取れる場合もあります。中古住宅では、こうした内装のサインを丁寧に確認することで、単なる見た目の傷みだけでなく、建物全体の劣化状況や潜在的な問題点を把握することができます。
そして、それらを踏まえたうえで、どのような補修や改修を行えば、安心で快適な住まいへと再生できるのかを考えることが、内部仕上げ状況のチェックにおける最も大切なポイントなのです。
チェック方法
内部仕上げのチェックは、特別な道具や難しい知識がなくても、基本的なポイントを押さえることで十分に行うことができます。目で見て確認するだけでなく、実際に触れたり、動かしたり、音を確かめたりすることで、内装の不具合や建物の異変に気づくことができます。ここでは、中古住宅の調査において最低限確認しておきたい、内部仕上げの基本的なチェック方法について解説します。
床、壁、柱の傾きのチェック
内部仕上げのチェックにおいて、最も重要なのが、床や壁、柱が傾いていないかを確認することです。建物の傾きは、構造や地盤の問題を反映している場合が多く、見逃してはいけない重要なサインです。
傾きの確認には、レーザーレベルや水平器を使用すると、短時間で正確に把握することができます。簡易的な方法としては、床の上にパチンコ玉を置き、その転がり方を見るだけでも、床の傾きの有無を確認することが可能です。
レーザーレベルを部屋の中央に設置し、四隅の床までの距離を測定します。すべての距離が同じであれば床は水平ですが、中古住宅の場合、完全に同じ数値になることはほとんどありません。問題となるのは、その数値が一定の方向に向かって大きくなったり小さくなったりしている場合です。このような傾向が見られると、建物全体が傾いている可能性が高くなります。
建物全体が傾いている場合、多くは地盤が不同沈下を起こしていることを意味します。床に置いたパチンコ玉が、北から南、あるいは東から西へ一定方向に転がるようであれば、床だけでなく建物全体が傾いていると判断できます。
壁の傾きは、レーザーレベルを壁の入隅や出隅に合わせることで確認できます。また、柱の傾きについては、柱頭に下げ振りを設置し、柱の下部と糸との距離を測定することで、柱や壁の傾斜を把握することができます。
建具、サッシュのチェック
建具やサッシの状態を確認することは、入居後に快適で安全な生活が送れるかどうかを判断するうえで、非常に重要なチェックポイントです。日常的に繰り返し使用する部分であるため、不具合があると生活上のストレスになるだけでなく、防犯性や気密性にも影響を及ぼします。
チェックの際は、可能な限りすべての建具、サッシ、網戸、雨戸を実際に開閉してみます。その際、開け閉めの重さや引っかかり、異音の有無を確認するとともに、施錠が正常に行えるかどうかも必ずチェックします。
開閉状況が悪い場合には、その原因を見極めることが重要です。単にレール部分にゴミや埃が溜まっているだけで、清掃や調整により改善するケースもあります。一方で、戸車やレールが摩耗・劣化している場合は、部品交換が必要となり、開閉不良が慢性化します。また、建物の傾きや変形が原因で建具自体が歪み、開閉が困難になっている場合もあり、その場合は建具だけでなく、構造や地盤の問題が背景にある可能性も考えられます。
床、壁、天井の仕上げ状態のチェック
床の状態は、日常の使い心地だけでなく、床下構造や劣化状況を読み取る重要なポイントです。フローリングやシート仕上げの場合は、室内を歩きながら、あえて足踏みするようにして確認します。その際、床鳴りがしないか、部分的に沈み込むような感触がないか、踏んだときにブヨブヨとした違和感がないかを丁寧にチェックします。
畳敷きの場合も基本は同様ですが、可能であれば畳を上げ、下地の状態まで確認することが重要です。下地にはベニヤ板や杉板などが使用されていますが、それらに腐食や変色、たわみがないかを確認することで、湿気や過去の漏水の有無を推測することができます。
壁や天井については、表面の仕上がりだけでなく、そこに現れる異変に注意します。壁面にひび割れがないか、天井に雨漏り跡やシミが残っていないか、カビの発生が見られないかを目視で確認します。これらは、建物の動きや漏水、結露などの影響が現れやすい部分です。
あわせて、階段や吹抜けの手すりについても、実際に触れてみて、ぐらつきや破損がないかを確認します。これらは安全性に直結するため、必ずチェックしておきたいポイントです。
調査結果とその判断基準
内部仕上げのチェックで確認した不具合や違和感については、その有無だけでなく、「どの程度なのか」「住まいにどのような影響があるのか」を正しく判断することが重要です。ここでは、調査で確認された状況をどのように評価し、注意が必要なケースと経過観察でよいケースをどのように見分けるのか、その判断基準について解説します。
床、壁、柱の傾き
レーザーレベルや下げ振りなどによる測定の結果、床・壁・柱の傾きが一定の基準を超えている場合は、建物自体、あるいは地盤が傾いている可能性が高いと判断します(詳しくは「地盤・建物の傾き状況のチェック」を参照してください)。
建物全体の傾きを是正する場合、建物をジャッキアップして修正する必要があり、工事は大掛かりとなり、多額の費用を伴います。そのため、傾きの程度が生活に支障をきたさないレベルであれば、無理に全体修正を行わず、部分的な修繕で対応する判断も現実的です。
たとえば、床が部分的に傾いている場合、地盤沈下ではなく、床を支えている束が沈下しているケースがあります。このような場合は、床下に入り、沈下した束を調整・補修することで、床の水平を回復できることも少なくありません。
また、床を踏んだ際にブヨブヨした感触があったり、局所的にへこみが生じている場合は、床板や根太が劣化している可能性が高くなります。これらの劣化は経年によるものもありますが、多くの場合、床下の湿気が原因となっています。
そのため、補修にあたっては、単に床板や根太を交換するだけでなく、床下換気を改善し、十分な空気の流れを確保することが重要です。床下環境を改善したうえで、劣化した部材をやり替えることが、再発防止の観点からも望ましい対応となります。
建具、サッシュ
建具やサッシが傾き、扉が枠や床に擦れている、あるいは隙間が生じている場合でも、軽微なものであれば、戸当たりや金物の調整によって改善できるケースが多く、修繕費用も比較的少額で済みます。
一方で、調整では改善せず、建具全体が大きく歪んでいる場合は、建物自体の傾きが影響している可能性があります。このようなケースでは、建具やサッシのみを修正しても根本的な解決にはならず、建物全体の傾きを是正する必要が生じるため、対応は困難となります。
また、レール部分に塵や埃が堆積して開閉しにくくなっている場合や、戸車が摩耗して滑らかに動かない場合、あるいは錠前が腐食して動きが悪くなっている場合は、清掃や部品の調整・交換によって改善することが可能です。これらは構造的な問題ではないため、大掛かりな工事や高額な費用を伴うことはほとんどありません。
床、壁、天井の仕上げ状態
壁・天井・開口部まわりに水漏り跡が確認された場合、屋根やバルコニー、外壁のひび割れ、開口部の取り合い部分などから雨水が浸入している可能性が高いと判断します。特に開口部まわりのシミや変色については、雨漏りではなく結露によるものも多く見られます。また、上階にトイレや浴室などの水まわりがある場合は、給排水管からの漏水が原因となっているケースも考えられます。
いずれの場合においても、水が建物内部に侵入している状態は、構造材が長期間にわたり湿気や水分にさらされているのと同じであり、その期間が長くなるほど、木材の腐朽や金属部材の腐食が進行している可能性が高くなります。その結果、他の健全部分と比べて強度や耐久性が低下している恐れがあります。このような兆候を発見した場合には、表面的な補修にとどまらず、必ず原因を特定し、根本的な改善を行うことが重要です。
天井や壁に雨漏りが確認された場合は、屋根材の割れやズレ、棟部・谷部の劣化などを点検し、必要に応じて補修や交換を行います。外壁のひび割れや開口部まわりの隙間については、劣化したコーキングの打ち替えなどが有効な対策となります。また、結露が原因の場合には、換気扇の設置や換気量の確保、断熱性能の向上といった対策が求められます。
さらに、天井・壁・床の仕上げ材に著しい汚れや隙間、ひび割れ、異臭などが認められる場合は、日常生活に不快感を与え、快適な住環境を維持することが困難となります。このようなケースでは、部分補修では対応しきれないことも多く、仕上げ材を全面的にやり替える判断が必要となる場合もあります。
