「同じ木材を使っているのに、ある家は白蟻被害がなく、ある家は被害を受けている」その差を生む最大の要因のひとつが、木材の“含水率”です。白蟻や腐朽菌は、湿った木材を好みます。つまり、木材が湿っているかどうか(=含水率の高さ)が、被害を受けるかどうかの分かれ道になるのです。
含水率とは?
含水率(がんすいりつ)とは、木材に含まれる水分の割合のこと。以下のように定義されます:
含水率(%)=(水を含んだ状態の重さ-乾燥状態の重さ)÷乾燥状態の重さ × 100
乾いた木材でも空気中の湿気を吸収して、常に一定の水分を含んでいます。この水分量が高くなると、白蟻や腐朽菌にとっては「ごちそう」になってしまうのです。
白蟻が好む含水率
白蟻は水分を必要とする昆虫であり、乾燥した木材には住みつきません。
含水率の状態 | 白蟻の活動傾向 |
---|---|
20%未満 | 乾燥しすぎて活動困難。白蟻はほぼ生息しない。 |
20〜30%前後 | 活動可能。白蟻が木材内に侵入・定着できる。 |
30%以上 | 活動活発。湿気が多く、巣や蟻道が形成されやすい。 |
含水率が20%を超えると危険信号です。
特に床下や水まわり、壁内部のように湿気がこもりやすい場所では、この閾値を超えることが頻繁にあります。
腐朽菌の好む含水率
腐朽菌は、木材を分解して腐らせる微生物です。この菌もまた、高含水率の木材を好んで繁殖します。
腐朽菌の種類 | 活発になる含水率 |
---|---|
褐色腐朽菌(ドライロット菌など) | 約30%〜50% |
白色腐朽菌(キノコ系) | 約40%以上 |
軟腐菌 | 水中・地中など、ほぼ100%に近い環境でも活動可能 |
木材が湿って長時間乾かない状態になると、菌が胞子を出し、木材の強度を著しく低下させてしまいます。さらに、白蟻は腐朽菌で柔らかくなった木材を好んで食害する傾向があるため、両者は密接に連携して被害を拡大させます。
含水率が上がる原因とは?
木材の含水率が上がる主な要因は以下の通りです。
原因 | 内容 |
---|---|
地面からの湿気 | 土壌に近い場所(床下など)で地面から湿気が上がる |
水漏れ・雨漏り | 配管からの漏水や屋根・外壁からの雨水の浸入 |
結露 | 気温差により、壁内や床下に結露が発生し湿気がこもる |
通気不足 | 押入れ・クローゼット・床下・天井裏などで空気がこもる |
不適切な乾燥木材の使用 | 建築時に十分乾燥していない材を使用した場合も注意が必要 |
含水率の管理と測定
含水率は、デジタル含水率計(ピン式/非接触式)を使うことで簡単に測定できます。建築現場やリフォーム工事では、次のような管理が推奨されます。
新築時
- 構造材や造作材の含水率が20%以下であることを確認
- 使用前に含水率計でランダムチェックを行う
- 湿度の高い時期は、施工後も床下や柱周辺を乾燥させてから仕上げる
既存住宅や点検時
- 床下・押入れ内・壁内の木部の含水率を定期的にチェック
- 含水率が25%以上ある場所は重点的に調査・改善が必要
対策のポイント
対策 | 内容 |
---|---|
床下の防湿 | コンクリート打設、防湿シート、調湿材の敷設など |
換気の改善 | 基礎パッキン、床下換気口、機械換気装置など |
断熱と気密の工夫 | 結露を防ぐための断熱材・気流止めの適切な施工 |
乾燥材の選定 | 含水率20%以下のJAS認定材などを優先使用 |
木部の防腐・防蟻処理 | 含水率が上がる前に、薬剤処理で予防 |
まとめ:見えない“湿り”が、家の寿命を縮める
白蟻も腐朽菌も、「湿った木」が大好きです。だからこそ、木材の「含水率」をコントロールすることが、住宅の寿命と安全性を守る上で最も基本的で有効な手段になります。
含水率を制する者が、白蟻被害を制す。
建築現場でのひと手間が、住まいの未来を左右するのです。
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