建物の傾きは、見た目の問題だけでなく、その建物が持つ耐震性や安全性に大きな影響を与えるため、決して軽視できない問題です。特に、大きな地震が来た際の倒壊リスクと密接に関係しています。建物の傾きと地震による倒壊との関係について、以下の点を詳しくご説明します。
なぜ建物が傾くと地震で倒壊しやすくなるのか?
建物が傾いているということは、その構造体に「不均等な負荷」がかかっている状態です。これは、建物の持つ本来のバランスが崩れていることを意味します。この状態で地震が発生すると、以下のようなリスクが高まります。
- 構造体の弱体化: 傾いた建物は、柱や梁、基礎といった主要な構造部分に不均等な力がかかり、ひび割れや歪みが生じやすくなります。これらの構造的な損傷は、建物の耐震性を著しく低下させます。
- 重心のズレ: 建物が傾くことで、その重心がズレてしまいます。地震の揺れは、この重心を中心に建物を揺さぶるため、バランスが崩れた状態では、より大きな揺れとして建物に伝わりやすくなります。例えるなら、まっすぐ立っているものよりも、少し傾いたものの方が軽く押しただけで倒れやすいのと同じ原理です。
- 不同沈下(ふどうちんか)の進行: 傾きの原因が地盤の不均一な沈下(不同沈下)である場合、傾きは自然に改善されることはありません。むしろ、傾いた方向へさらに沈下が進行し、建物全体のゆがみが大きくなることがあります。このような状態で地震の揺れが加わると、建物の構造体がそのゆがみに耐えきれず、倒壊につながる危険性が高まります。
傾きの原因は?
建物の傾きは、必ずしも地震が原因とは限りません。以下のような様々な要因で発生することがあります。
- 地盤の問題:
- 不同沈下: 軟弱地盤や埋立地などで、地盤が均一に沈下せずに不均一に沈むこと。
- 液状化: 地震の揺れによって、水分を多く含んだ砂質の地盤が液体のように軟らかくなる現象。
- 建物の構造上の問題:
- 欠陥住宅: 建築当初から基礎や構造に問題があった場合。
- 経年劣化: 柱や基礎の腐食、シロアリ被害など、建物の老朽化によるもの。
このように、傾きが地震によって発生することもありますが、傾いている建物が、別の地震で倒壊するリスクが高まるという両方の関係性があります。
どの程度の傾きから危険なのか?
建物の傾きには、「許容範囲」という目安があります。
- 新築住宅: 建築基準法や「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」では、1mにつき3mm以下の傾きが許容範囲とされています(3/1000)。これ以上の傾きは、瑕疵(欠陥)の可能性があると判断されます。
- 国による被害認定基準: 地震などの災害で家が傾いた場合、国が定める被害認定基準では、傾きの程度によって被害のランクが分けられています。
- 半壊: 傾きが1/100以上(10/1000)
- 大規模半壊: 傾きが1/60以上1/20未満(17/1000〜50/1000)
- 全壊: 傾きが1/20以上(50/1000)
これらの基準からもわかるように、10/1000(1mにつき1cm)を超えるような傾きは、倒壊の危険性が高まると考えられています。
対策とアドバイス
建物の傾きは、放置すると倒壊リスクだけでなく、住む人の健康にも悪影響(めまい、頭痛、自律神経の不調など)を及ぼす可能性があります。
まずは専門家による精密な調査をお勧めします。スマートフォンアプリなどでも簡易的な傾きチェックはできますが、正確な状況を把握するためには、レーザー測定器など専門の機器を用いた調査が不可欠です。
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