ひび割れ(クラック)の中には、自然現象によるものだけでなく、人為的なミスや不適切な管理によって発生するものもあります。本来であれば防げたはずのクラックが、施工精度の低さや養生不足によって生じてしまうことは少なくありません。この章では、施工ミスや養生不足が原因となるクラックの典型例と、見極め・対処のポイントを解説します。
養生不足によるクラック
ひび割れは、乾燥・気温・湿度の管理ミスで起こることもあります。「養生」とは、コンクリートやモルタルなどを打設・塗布したあとに、適切な温度・湿度・乾燥速度を保って硬化を安定させる管理作業のことです。これが不十分な場合、以下のような不具合が生じやすくなります。
よくある症状と原因
発生部位 | 原因 | クラックの特徴 |
---|---|---|
モルタル外壁 | 急激な乾燥・直射日光 | 表面に細かく浅い乾燥クラックが網目状に出る(ヘアクラック) |
コンクリート基礎 | 打設直後の乾燥・寒冷時の凍結 | 深さのある縦割れ、表面剥離、凍害によるポップアウトなど |
内装下地 | 冬場の施工で急な暖房使用 | 乾燥収縮によるジョイントの開き、クロスの割れ |
養生不足によるクラックは、「材料本来の強度を十分に引き出せない」状態で固まるため、将来の劣化スピードが早くなるというリスクがあります。
施工ミスによるクラック
計画・作業・確認の“甘さ”いわゆる施工ミスによるクラックは、本来設計された力の逃げ道がないまま、材料に無理がかかった結果生じる破断現象です。
代表的な例
施工ミスの種類 | クラック発生の理由 | 備考 |
---|---|---|
鉄筋のかぶり不足 | コンクリート表面に近すぎて、すぐ錆びる→内部から破壊 | 爆裂(ポップアウト)の原因にも |
ALC・サイディングの固定不良 | 金具の締めすぎ・不均一で応力が集中 | 目地に亀裂、パネル面に波打ちが生じる |
伸縮目地の未設置 | モルタル・タイルの広い面に目地なし | 自然な収縮の逃げ場がなく、強制的に割れる |
墨出し・レベルミス | 構造がわずかに傾き荷重が偏る | 基礎の斜めクラック・構造壁のゆがみへ発展 |
このようなクラックは、施工直後には目立たず、1年~数年経ってから発覚することが多いため、点検時の記録と施工履歴が重要になります。
「養生不足」か「施工ミス」かを見分けるヒント
判別ポイント | 養生不足によるクラック | 施工ミスによるクラック |
---|---|---|
発生時期 | 施工後~数週間以内に表面に発生 | 数ヶ月~数年後に構造部で進行 |
発生範囲 | 全体的に薄く広がる | 限定的かつ深く・明瞭な形で現れる |
状態 | 幅0.1〜0.3mm程度の浅いクラック | 幅0.3mm以上で貫通していることも |
影響 | 見た目や防水性の低下 | 構造安全性の低下、雨漏りや白蟻被害の誘因にも |
施工記録や写真がある場合は、それが判断材料になります。第三者検査を入れておくと、後々のトラブル回避にも有効です。
まとめ:「人の手」で起こるクラックを防ぐには
ポイント | 内容 |
---|---|
養生の徹底 | 適切な乾燥期間・湿度管理・寒冷時の対策をとる |
施工前のチェック | 墨出し、レベル確認、鉄筋かぶり厚さなどの検査を省略しない |
施工中の監理 | 材料の扱い方、金具の締め方、目地設置の有無を監理者がチェック |
施工後の確認 | クラックスケールによる確認・写真記録・報告書作成 |
クラックの中には、「自然現象ではなく、人間の手によって生まれたもの」もあります。施工段階での丁寧な仕事と、それを確認するしくみがあれば、未然に防げるひび割れは確実に減らせます。
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