擁壁の問題に直面したとき、多くの方が「どこに相談すればいいのか分からない」「業者の言うことが本当なのか判断できない」と感じます。
建築事務所の役割は、工事を請け負うことではなく、第三者の立場で状況を整理し、判断材料をそろえることにあります。ここでは、建築事務所が擁壁に関してどのようなサポートを行えるのかを整理します。
擁壁を「構造+法規+将来」で総合的に見る
建築事務所が行う擁壁サポートの最大の特徴は、擁壁を単なる土木構造物としてではなく、
- 建物との関係
- 法規制との関係
- 将来の建て替え・改修との関係
まで含めて総合的に評価できる点にあります。擁壁単体では問題がなく見えても、建築行為との関係で「使い続けられない擁壁」であることも少なくありません。
既存擁壁の現状整理とリスクの見える化
建築事務所ではまず、
- 擁壁の種類・構造
- 高さ・段構成(二段擁壁の有無)
- 劣化状況や変状の有無
- 周辺地形・建物との関係
を整理し、どこにリスクがあり、どこは問題ないのかを言語化します。「危険」「安全」といった曖昧な表現ではなく、理由を伴った説明ができるのが専門家の強みです。
図面・法規の確認と建築可否の判断
擁壁が関係するトラブルで特に多いのが、
- 建て替え時に建築確認が下りない
- 是正を求められる
- 想定外の工事が必要になる
といったケースです。建築事務所では、
- 宅地造成工事規制法
- 建築基準法
- 崖条例・自治体独自基準
などを確認し、「この擁壁で何ができて、何ができないのか」を明確にします。
補強・是正・作り替えの選択肢整理
擁壁に問題があった場合でも、必ずしも「全部やり直し」になるとは限りません。建築事務所では、
- 経過観察で済むケース
- 補修・補強で対応できるケース
- 作り替えを検討すべきケース
を整理し、現実的な選択肢を複数提示します。あわせて、
- 工事の難易度
- 概算費用の考え方
- 工事期間や生活への影響
といった点も含めて説明します。
分野の専門家との連携窓口
擁壁の問題は、建築士だけで完結しないことも多くあります。
- 地盤調査会社
- 土木設計者
- 行政窓口
との連携が必要な場面では、建築事務所が調整役・翻訳役として機能します。専門家同士の話を、
施主が一つひとつ理解する必要はありません。
施主の立場に立った「判断のサポート」
建築事務所の最も重要な役割は、「決断を迫ること」ではなく、判断できる状態をつくることです。
- 本当に今やるべき工事なのか
- 将来まで見据えた判断か
- 費用とリスクのバランスは適切か
こうした点を一緒に整理し、施主が納得して選択できるよう支えます。
まとめ|建築事務所は「安心を組み立てる存在」
建築事務所ができる擁壁サポートは、「危険を指摘すること」ではありません。
- 情報を整理し
- 選択肢を示し
- 将来まで見通した判断を支える
それが、建築事務所の役割です。擁壁に少しでも不安を感じたら、工事の前に、まずは“相談できる専門家”を持つことが、住まいと暮らしを守る第一歩になります。

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