セルフチェックは、擁壁の異常に「気づく」ための大切な作業です。しかし、その擁壁が本当に安全かどうか、今後も使い続けられるのかを判断するためには、専門家による確認が欠かせません。
専門家は、見た目の異常だけでなく、構造・地盤・法規・劣化の進行度といった複数の視点から、擁壁を総合的に評価します。ここでは、専門家が実際にどのようなポイントを見ているのかを解説します。
チェック① 擁壁の構造形式と築造時期ーー「どんな擁壁か」「いつ造られたか」は最重要情報
まず専門家が確認するのは、擁壁の種類と築造された時期です。
・鉄筋コンクリート擁壁か
・無筋コンクリート擁壁か
・石積み・間知石積みか
・ブロック積擁壁か
これにより、もともとの耐久性や耐震性の水準がある程度判断できます。特に、現在の基準が整う前につくられた擁壁は、構造計算がされていない、または安全率が低いケースが多く、重点的な確認が必要になります。
チェック② 擁壁の寸法・勾配・控えの有無ーー形状は安全性に直結する
専門家は、擁壁の高さ、厚み、勾配、控え壁の有無などを細かく確認します。
・高さに対して壁が薄すぎないか
・ほぼ垂直になっていないか
・控え壁や補強構造があるか
これらは、設計時に十分な土圧計算が行われていたかどうかを推測する重要な要素です。
チェック③ 排水構造と背面の状態ーー擁壁の寿命を左右する最大のポイント
擁壁のトラブルで最も多い原因の一つが、排水不良です。専門家は、
・排水孔の位置と数
・排水管の有無
・背面に透水層があるか
といった点を確認します。
必要に応じて、排水孔からの水の出方や、背面土の状態を推測し、内部に水が溜まりやすい構造かどうかを判断します。
チェック④ ひび割れの種類と進行性ーー「ある」かどうかより「どういうひびか」
専門家は、ひび割れを単に「ある・ない」で判断しません。
・構造的なひび割れか
・乾燥収縮による表面的なひびか
・現在も進行している可能性があるか
これらを総合的に見て、今後の危険度や補修の必要性を判断します。
特に、幅が広がっているひびや、複数方向に走るひび割れは注意が必要です。
チェック⑤ 擁壁背面地盤と周辺環境ーー擁壁単体ではなく「敷地全体」で見る
擁壁は単独で存在しているわけではありません。専門家は、擁壁背面の地盤状況や周囲の環境も確認します。
・背面地盤が盛土か切土か
・周囲に水が集まりやすい地形か
・近隣の擁壁や斜面の状況
これにより、将来的な地盤変動や水の影響を受けやすいかどうかを判断します。
チェック⑥ 法的な位置づけと既存不適格の有無ーー「合法かどうか」も重要な判断材料
専門家は、擁壁が宅地造成工事規制法や建築基準法上、どのような扱いになっているかも確認します。
・確認申請時に擁壁が審査対象だったか
・既存不適格の擁壁ではないか
・将来の建替えや売却に支障が出ないか
これは、安全性だけでなく、資産価値や将来計画にも直結するポイントです。
チェック⑦ 総合判断と今後の対応方針「すぐ危険か」「経過観察か」を見極める
専門家は、これらの情報を総合し、
・今すぐ対策が必要か
・当面は経過観察でよいか
・補修・補強が必要か
といった判断を行います。
必要以上に不安を煽るのではなく、現実的で段階的な対応策を示すことが、専門家の役割です。
まとめ:専門家チェックは「判断」と「安心」のため
セルフチェックは気づくための第一歩、専門家チェックは正しく判断するためのステップです。擁壁は一度崩れると取り返しがつきませんが、早い段階で専門家が関われば、選択肢は大きく広がります。

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