劣化を早める原因

擁壁の劣化を早める原因 擁壁特集
雨・地震・環境が擁壁劣化を静かに進める

 擁壁の劣化は、単に「年数が経ったから」進むものではありません。実際には、いくつかの要因が重なり合うことで、想定よりも早く寿命を縮めてしまうケースが多く見られます。ここでは、擁壁の劣化を加速させる代表的な原因について、順を追って解説します。

雨水と排水不良による劣化ーー擁壁にとって「水」は最大の敵

 擁壁の劣化を最も早める要因は、雨水の処理不良です。擁壁は本来、背面に溜まる水を速やかに排水することで、土圧の増加を防ぐ構造になっています。しかし実際には、

 ・排水孔が設けられていない
 ・排水孔が土やゴミで詰まっている
 ・背面に透水層がない

 といった擁壁が数多く存在します。

水が溜まると何が起きるのか

 水が抜けない状態になると、

 ・土の重量が増える
 ・水圧が直接擁壁にかかる
 ・微細なひび割れから内部へ浸水する

 結果として、擁壁は前方へ押し出され、ひび割れ・膨らみが進行します。これはコンクリート・石積み・ブロック、すべての擁壁に共通する弱点です。


地震による繰り返しのダメージーー一度の地震だけが問題ではない

 擁壁の耐久性を低下させるのは、大地震だけではありません。中小規模の地震が何度も繰り返されることが、じわじわと劣化を進めます。特に、

 ・石積み擁壁
 ・間知石積み擁壁
 ・無筋コンクリート擁壁

 は、地震の横揺れに弱く、目に見えないズレや緩みが蓄積していきます。

地震後に注意すべきポイント

 地震後には、

 ・ひび割れが増えていないか
 ・擁壁が前に出てきていないか
 ・排水孔の位置がずれていないか

 といった点を必ず確認する必要があります。地震をきっかけに、劣化が一気に表面化することも珍しくありません。


経年劣化と材料そのものの限界ーーコンクリートも石も、永遠ではない

 どれほど丈夫に見える擁壁でも、材料そのものは時間とともに必ず劣化します。

 ・コンクリート:中性化・鉄筋腐食
 ・石積み:かみ合わせの緩み・目地の劣化
 ・ブロック:ひび割れ・鉄筋腐食

 これらは避けられない自然な劣化現象です。特に問題なのは、劣化が擁壁の内部や背面で進行することです。表面がきれいでも、

 ・内部で空洞化が進んでいる
 ・基礎部分が洗掘されている

 といったケースは少なくありません。

施工不良・設計不足による早期劣化ーーつくられた時点で弱点を抱えている擁壁

古い造成地では、

 ・鉄筋量が不足している
 ・基礎が浅い
 ・排水設計が不十分

 といった擁壁が多く見られます。これらは、完成直後は問題がなくても、年数とともに急速に劣化します。特に注意が必要なケースとして、 

 ・無筋コンクリート擁壁
 ・ブロック積み擁壁
 ・種類の異なる二段擁壁

 これらは、構造的に弱点を抱えやすく、想定より早く危険な状態に陥る可能性が高い擁壁です。


植栽・樹木・外部環境の影響ーー意外と見落とされがちな原因

擁壁の近くに植えられた樹木や植栽も、劣化を早める原因になります。

 ・根が擁壁を押す
 ・根が排水経路を塞ぐ
 ・水分を溜め込みやすくなる

 特に、長年放置された庭木は、擁壁にとって大きな負担になることがあります。


まとめ:劣化は「複合的」に進む

 擁壁の劣化は、

 ・雨水
 ・地震
 ・経年
 ・施工不良
 ・周辺環境

 といった要因が単独ではなく、複合的に作用して進行します。だからこそ、「まだ大丈夫そう」
ではなく、「なぜ今の状態になっているのか」を考えることが重要です。

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